国土交通員会・閉第2号 2006-01-19
【質疑事項】
1.建築物の構造計算書偽装問題に関する件
○西田まこと君 公明党の西田実仁でございます。
本日は、お三方、参考人の皆様方には、もう大変なお忙しいところをわざわざ国会まで足を運んでいただきまして、誠にありがとうございます。
まず、宮本参考人にお聞きしたいと思いますけれども、この今話題になっております姉歯元建築士の事件に関しまして、最初の偽装というのは98年だというふうに本人は言っているわけであります。私もこの建築関係は全く素人でございますけれども、1つの建物ができ上がるときにかなりの多くの人が関与をしておりますし、また、数多くの会社も関与している。そういう設計から現場、すべてのプロセスにいろんな方が関与している。そういう意味では、その偽造がかくも長い間、ある意味ではばれなかったというのは、かかわっている人が多ければ多いほど、普通はなかなか秘密というか、そういうことがそう簡単には守られないというか、どこかで流れていったりしてばれるもんではないかというふうに思うわけでありますけれども、かくも長い間、そういう意味でこの案件、事件が明るみにならなかったという背景にはどんなことがあり得ると、御専門家の立場からお思いになるでしょうか。
○参考人(宮本忠長君) お答えしたいと思います。
私の感じでは、建築主とそれから施工、今のところ、工事関係者ですね、何か全部同じ1つの系列の中にずっと入っているということが、入っていたというか、いることが大きいんじゃないかと思いますね。
ですから、チェック機能が別会社で、例えば設計は設計で独立性があって、それから施工は施工でちゃんと独立性があってというようなことになっていれば、今度は、設計の中でも今の構造計算チームと、あるいは設備チーム、あるいは意匠チームとありますが、それがはっきりきちんとして顔が見えれば必ずそこで発見でき、こういう事故は起きなかったと思うんですね。もう、ですから本当に入口の言わばシステムですかね、つくられるシステムの中でこの問題は結局今まで発見できなかったと。
ですから、大体、私ら新聞情報だけですけれども、同じグループだけですよね、一番多いのは。そこに姉歯氏が、彼が偽造をしていても、そういった問題をクローズアップというか、表に出てこなかった。普通は工事をやる施工者と、例えば発注者が甲としますね。建築者が甲として、発注者が甲として、施工者が乙で、それから設計者が丙というようなそういう契約関係というのがあるんですね。そうすると、甲乙丙の契約関係がありまして、乙が、工事者が工事をやっているとき、工事が始まったときに、あるいは図面を見て工事をやるときに、これはちょっとおかしいということが分かった場合にはすぐ乙は甲に報告しなければいけない、そういう契約約款上それはありますね。そして、そうすると、甲はそれを受けてすぐ丙の設計者に、こういう指摘があって、現場であったけれどもこれはどうなんだということをすぐにやらなくちゃいけない、そういう関係も独立性があれば働くわけですね。それが私、不思議でしようがないのは、そういう働きが一つもなかったんではないかと。だから、その辺が、もう本当に何というか、特殊な、要するに建設の特殊なケースだと思いますね。
○西田まこと君 今、宮本参考人からいただきましたこの資料に、先ほども御説明ございましたが、設計を統括する建築士、実務経験が10年ないし15年ぐらいあれば、先ほどいみじくも宮本参考人もおっしゃったように、御専門は意匠であるけれども構造についても大体分かると、こういうお話がありました。私も何人か知り合いの建築士の方にお聞きしましても、そのようなことを言われておられました。
ただ一方で、非常に専門化あるいは高度化という流れがよく強調されます。大体分かるではなかなか済まないというお話も聞いたりすることもあるわけでありまして、どうなんでしょうか、この特に建築構造士のありていに言えば地位向上というか、しっかりとした立場を保たせることが安全にとって大事であるという指摘がかなり聞かれる一方で、ここで宮本参考人が言われていることは、設計を統括する建築士というのは現状でいきますと多分意匠の建築士になるんだと思うんですね、元請というか、仕事を最初に請けるという意味でいいますと。現状で10万人ぐらいと言われている意匠の人たちが統括する建築士としてそこをきちっとすればいいという考え方と、いやいや、そうじゃなくて、やはり構造はもうどんどん高度化、専門化しているので、それはもう建築構造士の方をしっかり国家資格なりなんなりして、ここをきちっとした位置付けをすべきであると。こういうお考え、ちょっと、恐らく、この後、榊原参考人にもお聞きしたいんですけれども、お立場で違うんじゃないかというふうに思うわけなんです。
これについて宮本参考人にお聞きしたいということと同時に、その後、榊原参考人には、実際に、今の建築士法、士法は、結局、この意匠も構造も設備も一人のいわゆる一級建築士がいればすべて監修できるという非常にスーパーマンみたいな人を前提とした法律の組立てになっていると思うわけでありますけれども、それがもう今や高度化、専門化の中でなかなかそうはいかなくなってきている。ということで、構造専門の方々は今までも何度も法改正に取り組んでこられたと思います。しかしながら、実際によく言われていることは、意匠、設計の人たちの、人数も多いですから、10倍ぐらいいるわけで、その壁にある意味で阻まれてなかなか士法改正に至らなかったという、そういう過去の経緯もあろうかと思っておりますので、それを踏まえて、最初に宮本参考人、そしてその後、榊原参考人にこの件についてお聞きしたいと思います。
○参考人(宮本忠長君) 宮本です。お答えします。
意匠のやっている専門の人というのは、言うなれば、さっき私も、約、建築士会で言えば10万人ぐらいとか数があるにしても、全員が統括できるというような人はあんまりすぐ、例えば意匠、私は意匠だからもう統括できるんだと、そういうことはまずないと思いますね。やはり、それで私は10年から15年ぐらいは実務経歴を踏まないとなかなか統括ということはできないんではないかと。
それからもう1つは、統括するというのは、構造も設備もある程度いろんな現場経験をずっと何遍も何遍も踏んでくれば一応は理解できるわけです。ところが、そういう現場経験を踏まなければなかなか分からないわけですね。
それからもう1つは、先ほどたまたま和田先生の、建築は用と美と強というお話ありましたけど、私はいつも思うんですけど、正三角形の、正三角形のちょうど重心ですね、真ん中に建築というのはあると思うんです。それで、意匠の統括する人というのは真ん中にいる人だと思うんですね。
それで、例えば構造の人は今度は正三角形の1つの頂点にある。それから、今度はこっちの方で機能的に用という働きをきちんとチェックする人はこっちの極にある。それから、今度は美しいという要素も必要ですから、それは美しいという要素はこっちの端にある。そうすると、正三角形のちょうど真ん中にある人が統括する建築士の役割だと思うんです。
ですから、自分はもう美しい美しいでやるような人は本当の統括するあれはないと思います。その重心の丸がどっちかに偏っちゃ駄目なんですね。絶えず真ん中にいるということでやらなければ建築にまとまらないと思うんです。ですから、余り一方的に、いやもう意匠こうだから構造はもうここで我慢しておけとか、そういうことはまずあり得ませんですね。そういうコラボレーションをやっております。
○参考人(榊原信一君) 宮本先生も言われた統括という意味は、僕の解釈では、構造的なすごい高度な内容まで分かると、そういう意味ではなくて、建築のプロジェクト全体をまとめていく上では、たとえ分離という形、技術者が分離はしていても、だれかがやっぱりまとめないとプロジェクトは成り立たないんですよね。それぞれが勝手なことを言っていたのでは1つにまとまりませんから。
そういう意味で、幅広く知識と、そういうことを分かる人が統括をするという意味で、当然ある程度構造のセンスもあるでしょうし、設備のこともよく分かっている方がプロジェクトをまとめていくという意味に僕はとらえています。ですから、僕も統括者は必要だと思っています。ただ、発注形態が必ずしも意匠、構造という、お金の流れが意匠、構造、設備、分離でもいいかなと。そこに統括者がいるということでもよろしいんじゃないかなということは考えられます。
それから、構造士の資格といいますか、意匠の壁というのがありましたが、確かにやはり意匠系といいますか、一級建築士の方から構造の部分あるいは設備の部分を剥奪するということは権利が少し減るわけですから、そういう意味での抵抗はあると思いますけれども、今もう意匠の方もそういうことも言っていられないという認識だと思います。ですから、ある規模、今いろいろその辺は数字が出されていると思いますが、例えば先ほど和田先生に言っていただいた20メーターだとか、そういうある規模以上のものは、構造士といいますか今の建築構造士かどうかは別として、士法でしっかりした資格を決めた上でそういう人がタッチしないと仕事が成り立たないような規制は十分あり得るんだと思います。
それに対して統括の、これは意匠系でもいいし、先ほどの例えば工場みたいなプラントだったらば構造でもいいかもしれません。あるいは設備でもいいかもしれません。ただ、そういう統括者というのは必要だろうというふうに思っています。
○西田まこと君 最後に和田先生にお聞きしたいと思いますけれども、再三出ておりますこのピアチェックについてですけれども、これが実際に欧米では行われているということでありますが、今のこの日本の実態、現実の上でどの程度、理論としてというか考え方としてよく分かりますけれども、現実的なのかどうか。もし何か障害があるとすれば、これを日本に導入していく場合にどういうハードルを乗り越えていく必要があるのかということを最後お聞きして、私の質問を終わりたいと思います。
○参考人(和田章君) 今日、この5枚の紙にも書かせていただきましたけど、その1981年に高さ60メートルまでは普通の一級建築士でよいということになったんですけど、それから確認申請で主事さんが見ればよいことになったんですが、30メーター以上、場合によっては45メーター以上はこの建築センターとか総合試験所でやってたわけです。ですから、欧米でやってたということも、このこと自体がそういうことを参考にしてもう40年前からやってるのかもしれませんが、ピアチェックのようなことは既に経験があるので問題ないと思うんです。
それで、例えば横に10軒、それから縦に10階建ての100戸入るマンションがあったとして、1人ずつが1万円払えば100万円のお金になるわけですね、買うときの。100万円あれば十分ピアチェックできますから、今回いろいろ出ていかれたり取壊しになった方がもし4千万円のマンションを4千1万円出してくれればピアチェックができるんですよと言えば国民は納得すると思うんですけど。
それで、それはある意味で緩めてきて、60メーターまでは主事さんや民間の機関でいいというふうにしたのはこの1999年からで、やはりこの難しい技術を余りにも広め過ぎちゃったんじゃないかなと私は思っているんですけど。