財政金融委員会・11号 2007-05-10

【質疑事項】
議題 日銀報告
1.金利の「正常化」か「引き上げ」か、との命題について
2.長短金利の形成システムについて
・日銀貸出しについて
・長期国債買いオペについて
・長期国債保有残高について
3.「前方監視型」の金融政策について
・その具体的中見
・CPIに求めるもの
・物価目標型の金融政策について
(資産インフレの懸念について)

本日の会議に付した案件
○政府参考人の出席要求に関する件
○参考人の出席要求に関する件
○財政及び金融等に関する調査
(日本銀行法第五十四条第一項の規定に基づく通貨及び金融の調節に関する報告書に関する件)
○連合審査会に関する件

ないものと認め、さよう決定いたします。

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○委員長(家西悟君) 財政及び金融等に関する調査を議題とし、日本銀行法第五十四条第一項の規定に基づく通貨及び金融の調節に関する報告書に関する件について、日本銀行から説明を聴取いたします。福井日本銀行総裁。

○参考人(福井俊彦君) おはようございます。日本銀行の福井でございます。
日本銀行では、昨年の十二月でございますが、平成十八年度上期の通貨及び金融の調節に関する報告書を国会に提出いたしました。本日、日本銀行の金融政策運営について詳しく御説明申し上げる機会をちょうだいいたしました。誠に有り難く存じております。厚く御礼を申し上げます。
最初に、最近の経済金融情勢について御説明を申し上げます。
我が国の景気でございますが、これは緩やかに拡大をしております。この点をやや詳しく御説明いたしますと、まず輸出でございますが、これは海外経済の拡大を背景に増加を続けております。また、高水準の企業収益や総じて良好な業況感が維持される中、設備投資も引き続き増加をしております。こうした企業部門の好調の影響は、家計部門にも波及しております。すなわち、企業の人手不足感が強まる下で、雇用者数は堅調に増加しておりまして、雇用者所得も緩やかな増加を続けております。その下で、個人消費は底堅く推移しているという状況でございます。このように内外需要の増加が続く中で、生産は増加基調にあり、在庫も全体として見ればおおむね出荷とバランスしている状況にございます。
先行きにつきましても、このように生産、所得、支出の前向きの好循環が作用する下で、景気は息の長い拡大を続けていく可能性が高いと考えられます。ただし、米国経済など海外経済の動向や原油価格の動きにつきましては、今後とも注意深く見ていきたいと思っております。
物価の面では、国内企業物価は足下では三か月前比で横ばい、三か月前との比較で見て横ばいとなっております。目先の動きを予想いたしますと、国際商品市況の反発などに伴いまして上昇に転じていくと見られるところでございます。消費者物価指数、これは生鮮食品を除くベースの消費者物価指数でございますが、これにつきましては、原油価格反落の影響などから前年比ゼロ%近傍で推移いたしておりますが、より長い目で見ますと、経済全体の需給ギャップが需要超過方向で推移していく中、プラス基調を続けていくというふうに予想されます。
金融面では、企業金融をめぐる環境は引き続き緩和的な状態にございます。CPや社債といった資本市場を通じた資金調達環境は良好な状況にございますほか、民間銀行は緩和的な貸出し姿勢を続けております。また、民間の資金需要は増加しておりまして、こうした下で民間銀行貸出しは増加しているという状況にございます。
次に、金融政策の運営について申し述べさせていただきます。
日本銀行は、二月の金融政策決定会合におきまして金融市場調節方針を変更いたしまして、無担保コールレート・オーバーナイト物の誘導目標を〇・五%前後といたしました。この政策変更は、昨年三月に導入された金融政策運営の枠組みに沿って行われたものでございます。
まず、二月会合までに明らかになりました内外の指標や情報を基に日本経済の先行きを展望いたしますと、これは先ほど申し述べましたとおり、緩やかな拡大が続く中で消費者物価は基調として上昇していくというふうに判断いたしました。このように、経済・物価情勢の改善が展望できることから、現在の政策金利水準を維持した場合、金融政策面からの刺激効果は次第に強まっていくと、こういうふうに考えられます。このような状況の下で、仮に低金利が経済・物価情勢と離れて長く継続するという期待が定着するような場合には、企業や金融機関などの行き過ぎた活動を通じて、中長期的に見て経済・物価の振幅が大きくなったり、あるいは非効率な資源配分につながるリスクがございます。日本銀行としては、経済・物価が今後とも望ましい経路をたどっていくためには、この際金利水準の調整を行うことが適当であるというふうに判断いたしました。この措置をとりました後も、極めて緩和的な金融環境は維持されておりまして、中長期的に物価安定を確保し、持続的な成長を実現していくことにこれは貢献していくというふうに考えております。
この先の金融政策運営につきましては、四月末の経済・物価情勢の展望、いわゆる展望レポートにおきまして、経済・物価情勢の見通しと併せて基本的な考え方をお示ししたところでございます。すなわち、日本経済が物価安定の下での持続的な成長軌道をたどる蓋然性が高いということを確認し、リスク要因を点検しながら経済・物価情勢の改善の度合いに応じたペースで徐々に金利水準の調整を行うことになると考えられるところでございます。
日本銀行といたしましては、今後とも経済・物価情勢の変化に応じて金融政策を適切に運営し、物価安定の下での持続的成長の実現に貢献してまいる所存でございます。
誠にありがとうございました。

○委員長(家西悟君) 以上で説明の聴取は終わりました。
これより質疑を行います。
質疑のある方は順次御発言を願います。

○西田まこと君 公明党の西田実仁でございます。
この経済・物価情勢の展望、いわゆる展望レポートの最新版を拝見させていただきました。
この将来展望の第一回、二〇〇〇年の十月三十一日版から最新のものまでを見ますと、大きく三つの期に分かれるのではないかと私は理解をしております。速水総裁の時代、また福井総裁の前半、すなわち伝統的な金融政策から積極的に乖離して政府・与党の意見を取り上げていった時期と私は思っているわけですけれども、その三期目は後半のときでございまして、今、伝統的金融政策に回帰する努力をされている時期であろうと、こういうふうに大きく分けて三つの期に分けて拝見をしておりまして、総裁、先ほど来からお話ございましたが、直近の消費者物価指数だけを見ると、いわゆるインフレ懸念から金利を引き上げるということがなかなか、それだけでは容認される状況にはないと、情勢にはないと思います。逆にコアインフレ率が前年同期比で下落をしたり、あるいは弱含みになっているということを認識すると、来春までこれ引き上げる機会をとらえることも困難ではないかというぐらいに見えるわけですね、この数字だけ見ますと。
しかしながら、そうした軟弱な物価情勢にもかかわらず、総裁、また政策決定委員の多くの委員の皆様方は、その次の金利引上げということを懸命に模索されている。今回の展望レポートにも徐々に金利水準の調整を行うという形で、表現で出されていると思います。ということは、こういう事実は、この日銀の政策金利そのものが、先ほど来からお話ありますように、消費者物価指数と短絡的に直結する形では金利政策を考えていないことを意味しているんだろうというふうに理解をいたします。
政策委員の多くの方々は、GDPベースでの需給ギャップの縮小と設備投資、また輸出の好調持続というものを背景にして家計部門の労働分配率が上昇することによる所得拡大、これを背景にした個人消費の回復、これによって需給バランスの点からデフレ圧力が解消し需要牽引型の物価上昇が始まると見ているんだろうなと推測というか、理解をしております。その意味では、いわゆる消費者物価の上昇ではなくて個人消費の将来の盛り上がりを担保にして金利を引き上げるというような思考回路になっているんだろうと思うわけであります。いわゆる一喜一憂して消費者物価指数がどうだからということではなくて、経済全体の需給動向を判断しながらこの金融政策を行っていると、こういう意味だろうと思います。
こうした点を考えますと、世上一般的に金利の引上げか、あるいは正常化かというような短絡的な二者択一の命題というのは決して正しい問題提起ではないだろうというふうに私は思っているわけでございまして、今後、今までのプロセスの中で、言わば第三期は、これまでの何でもありの金融政策、それは何でもありの財政政策との表裏一体だと思いますけれども、この何でもありの金融政策を早期に是正していくということが今求められて、またそのプロセスに入っているんだろうというふうにも思うわけでありますが、最初に、こうした私の理解が正しいかどうかはいろいろあるかもしれませんけれども、当面のこの金融政策の課題について総裁にまずお聞きしたいと思います。

○参考人(福井俊彦君) ただいま委員から非常に正しく御指摘いただきましたとおり、私どもの金融政策は、この先、物価安定の下で経済の拡大がより順調に続いていくように、資源再配分機能という点で金利の位置付けがより正しい位置付けに持っていけるように様々な条件を十分検討しながら運んでいきたいと、こういう段階だというふうに思います。
人によりましては、これは正常化の過程ではないかというふうにおっしゃいます。あるいは物価が余り上がらないのに金利の引上げをするのはなぜかと、様々難しい御質問をちょうだいするわけでありますけれども、今、私申し上げましたとおり、物価安定の下でせっかく実現しつつあるこの持続性のある着実な景気拡大軌道と、これを大事にしていこうとするためには、金利の位置付けというものが常により良く資源再配分機能を果たすという方向に持っていく必要があると。現実に経済の中で活動しておられる企業にしても家計にしても、経済が順調に動けば動くほど、やっぱり先行きを見ながら幾ばくか金利は上昇するんだという前提で行動されるわけでありますので、そうしたことを金融政策を行っていきます我々の立場からも十分読み取りながら呼吸の合った金融政策をやっていくということが大事だと。
正常化というふうに言ってもいいんですけれども、何か一定のペースで金利を上げていくんだと、金利が低過ぎるから一定のペースで金利を引き上げていくんだと、その過程では経済や物価の状況が多少振れようとそんなことに関係なく上げていくんだというふうな理解に結び付くことを私どもは過剰に心配しているのかもしれませんが、やはりそこを心配しておりまして、何事も見ないで一定のペースで正常化を図るということではないという意味で、正常化という言葉を使うことは私どもはかなり慎重に使っておりますけれども、金利機能がより正常に働くような方向に情勢を見極めながら慎重に持っていくという意味では正常化というふうに言っていいんではないかというふうに思います。

○西田まこと君 私の表現で言えば、何でもありの金融政策を早期に是正していくというプロセスの第一弾はマネタリーベースの無制限な拡大の廃止でありました。第二弾としてゼロ金利の廃止、そして今第三弾目に入っているのは、今総裁がおっしゃったことを私なりに理解しますと、形式的な金利の復活から金融政策的に意味のある金利水準に戻して機動的な金利政策をできるように、活用できるような状態にしていくと、今そういうプロセスに入っているんだろうと、こう思うわけでございますが。
そうしたことを、そういう日銀のお立場というものを理解しても、なおかつ今日御質問したい主たるテーマは、そうした、まあ正常化という言葉を使うかどうかはともかくとして、そうした金利の正常化をもちろん今は求められておりますが、併せて市場構造の正常化ということが本当の意味での正常化に必要ではないかというやや構造的な話を触れさせていただきたいと思います。
特に長短金利の形成システムということについてで、まず短期金利でございますけれども、これはちょっとやや技術的な話ですけれども、短期ゼロ近傍金利は、今、日銀の金融調節に時として異常な現象が出来してきておりまして、それは突発的な巨額の日銀貸出しの実行であるというふうに思います。
今年の一月二十六日に一兆二千七百億、二月十六日が一兆七百、二月二十一日が一兆八千百億、三月三十日は二兆七千八百億円と。日銀貸出しがこの今申し上げたところでも非常に突発的にまた巨額に出ているわけですね。これはなぜでしょうか。

○参考人(稲葉延雄君) 今お話ありましたように、日によって日銀の金融機関への貸出し、大きく増加することがございます。これは、最近では専ら補完貸付制度の利用が増えたことによるものでございます。
補完貸付制度は、借り手金融機関のオプションによって担保の範囲内で自由に日銀から借りられる制度でございます。例えば、期末日のように出し手の金融機関の運用姿勢が慎重化するといったようなときには市場の金利であるコールレートが高くなる傾向がございます。このようなときに市場から調達する代わりに日銀から補完貸付けを利用して調達するということがございまして、こういうふうなときに日銀からの貸出しが増加するということになってございます。
補完貸付けの適用金利はコールレートの誘導目標をやや上回るところに設定してございまして、今申し上げましたような市場がタイトになるというふうなときにはコールレートがこれを上回りそうになります。そうなりますと、金融機関は補完貸付けの方を利用するということになりますので、言ってみれば補完貸付けの適用金利がコールレートの言わば上限を画すと、こういう役割を果たすわけでございます。この結果、安定的なレートのコントロールに資するという、そういう補完貸付制度の機能、目的は達成されているということでございます。

○西田まこと君 補完貸付けによってそうした巨額な日銀貸出しの実行が行われたという御説明でした。技術的にはそういうことなんでしょうけれども、いわゆるその思惑どおりにいかなかった場合でも、もちろん担保の枠内でありますけれども、日銀信用で救済されるというのは分かりませんけれども、巨額の貸出しが実行されるということにつながるんではないかというふうに私は思います。
コールレートより高い公定歩合だけでいいのかどうか、金融政策とは別にこの金融機関の行動審査も必要なんではないかという問題意識を持っておりますけれども、総裁、いかがでございましょうか。

○参考人(福井俊彦君) 市場関係者の行動は、できるだけ日本銀行がいわゆる口頭指導でお行儀を正すというよりは、できる限り市場の中で適切な行動を取らなければ、あるいは読みを誤ればペナルティーを受けるということが望ましいというふうに思います。ですから、本来ですと、資金繰りの予測を誤った金融機関は市場の中で非常に高い金利で最終的な帳じりを合わせるというふうなのが一番いいわけでございます。
しかし、そうはいいましても、私どもは政策金利を目標とする、今であれば〇・五%前後と、この金利を実現しなければいけませんので、両方の要請を満たしていくために、補完貸付制度といって市場の中で普通に取れる金利よりは少し高い金利を払わなきゃいけない。そういう意味では市場の中で罰則金利を払いながら帳じりを合わせる金融機関が時として出ると、こういう仕組みで運営しているわけであります。諸外国の中央銀行でも多かれ少なかれ似たような仕組みになっています。
今の補完貸付金利の水準が十分そういう両目的を達成するために適切な高さに設定されているかどうかというのは、今後また経済がより望ましい方向に行き市場の機能もより円滑に動くようになった場合に今の水準が適切かどうか、つまり目標としている政策金利に比べて補完貸付金利が幾らか高いわけですが、この高さが十分かどうか、もっと高い方がいいんじゃないかというふうなことはこれから更に検討していく課題として残っているというふうに思っています。

○西田まこと君 よく分かりました。その辺の課題はあると思います。
次に、長期金利でございますけれども、教科書的に言えば、短期金利は中央銀行が政策的に管理をする、長期金利は市場の成長率とかあるいはインフレ予測とかあるいは中央銀行の政策に対する信認度によって形成されると、これは教科書に書いてある長期金利の形成システムだろうと思います。しかしながら、日本の現実はどうかといいますと、長期国債利回りは、ある意味で日銀のこの金融政策の姿勢によって、あたかも短期金利のごとく上下しているんではないかというふうに私は思っております。短期金利の方はしっかり日銀の管理下で安定して推移をしていることと対比されるわけであります。
具体的には、例えば昨年の四月から八月、今年の一月から二月を見ますと、日銀が短期金利の引上げに動くと、何となくそういう思惑が働きますと長期金利が素早く対応して上昇をすると。当面引上げの動きがなくなると、この三月、四月などがそうですけれども、極端に低位安定をしていくと。欧米の主要国を見ますと、中央銀行の政策意図に敏感に反応するのは短期金利あるいは短期国債、例えば二年物であり、長期金利は独自の動きをしているんではないかと思われます。こうした現象が起きる理由の一つとしては、長期国債がディーリングによってあたかも短期国債のように市場で取引されているということがあろうかと思います。
しかし、それ以上に重要で日本に特異な政策行動としては、やはり日銀による定期的かつ大量の国債買上げ、いわゆる長期国債の買いオペがあるんではないかと私は思っております。現在も毎月一兆二千億ですか。四回、一回当たり約三千億の長期国債買いオペを実行しておるわけですが、一見すると正常な金融政策の遂行に思えるわけですけれども、実は極めて異常な市場介入ではないかと私は思っております。年間に直しますと十四兆四千億ぐらい、フローで見ますと新規国債の年間発行額は三十兆弱ですから、半分近くをそれで占めている。
もちろん、日本銀行が直接これを受け入れているわけじゃなくて、大体発行が半年以上経過したものを買っているというのも事実であることは理解しておりますけれども、それでも国債の年間新規発行額の半分近くの国債が日銀買いオペの形で購入されていて、保有している金融機関からすれば満期前の償還になると。それだけの資金が自行に資金として還流されてくることを意味するわけです。その資金が新規国債の償還に充たっている、あるいは新規国債以外に発行される借換国債の引受資金の一部にもなっている。これは自明の理であろうと思います。
そこで御質問ですが、新規国債発行額の半分近くが日銀買いオペで資金供給されている国債市場は果たして正常に需給や価格機能で動いている市場と言えるのかどうか。先ほどお話ありました脱非常時を目指している、まあ私の言葉で言えば何でもありの金融政策からの脱却のプロセスに入っている現在もなぜ、かくも巨額の国債買いオペを行っているのかという質問にも代えられると思いますが、いかがでございましょうか。

○参考人(福井俊彦君) 委員から正しく御指摘いただきましたとおり、私ども、あるいは各国の中央銀行も、金融調節の基本原則はイールドカーブの左端、一番短いところに介入することによってそこを政策的に水準を決め、より長いところは基本的に市場の中で自然に金利形成をさせると、これが基本でございます。
それじゃ、そのすべての金融調節を超短期の金融資産の売買だけで行うことが円滑な金融調節になるかどうかという点にもう一つ技術的な問題がございまして、市場に供給すべき資金は非常に短い資金から銀行券の発行残高のように長期根雪となって残る資金需要まで様々ございます。ある程度長い資金、根雪となる資金については長い金融資産を買い取ることによって市場のベースをならした上で、その超短期のところに時にワサビを利かせ、時に甘味料を与えて政策的に目指す水準、金利水準を実現していく、これが通常のパターンでございます。したがいまして、より長い特に長期の債券、なかんずく長期の国債を買い入れる場合には相当な制約感を持ってやらなきゃいけないと、おっしゃるとおりでございます。ましてや、長期金利に影響を与えるとか財政の支援を行うというふうなことをいささかも目的にしてはならないということでございます。
今、日本銀行がやっておりますのは、確かにかなり多額の長期国債を買いオペレーションという形で買い続けておりますけれども、銀行券の発行残高がまだ非常に高い状況が続いているということが一つ大きな背景になっています。私どもは、あくまで当初申し上げましたような金融調節上の必要から長期国債を買い入れておりますが、やはり日本銀行の資産、負債の状況を踏まえながら、長期の資産が余りにも私どものバランスシートの資産サイドに偏り過ぎて将来の金融調節の弾力性を欠く、売りオペをしなければ調節ができないなんというような状況に絶対持っていってはならないとか、銀行券の発行残高をこれは上限としておりまして、それを上回る可能性を心配しなければいけないというふうな状況にならない範囲内でやっているということであります。
そして、長期金利に影響を与えないという意味では、実務の面でも、あらかじめ買入れ額を定めました上でほぼ定例的なタイミングで実施していると、市場にとって予測可能な状況でオペレーションをやっておりまして、長期金利に影響を与えないという姿でやっております。
政府の方の国債償還額も昨年度は非常に大きかったというふうなことがありまして、これだけ多額のオペをやっておりましても、日本銀行の長期国債保有残高はこのところ減少しております。日銀の資産サイドに占める長期国債の残高の比率というものは、例えば米国の中央銀行であります連邦準備制度、連邦準備制度の資産の中に占める長期国債の残高比率、それよりも低い水準にございまして、私ども、月々の買入れ額がかなり高い状況を続けているということは承知しながらも、異常な領域に入り込んでいるというふうには思っておりません。

○西田まこと君 成長通貨の供給として実行してきたこの国債の買いオペが、従来からいろいろ変わってきている中で日銀券の見合いの資産をどうしていくのかということは、さらにいろいろ内部で検討なさっていると思われますけれども、今後もその成長通貨の供給をどうするのかということを是非とも鋭意御検討いただきたいと思います。
今総裁からお話ありましたこの日銀の長期国債保有残高ですけれども、年間、今申し上げたとおり、フローで十四兆円以上の長国を買い上げているのだから、例えば六年間でいえば、長期国債保有残高八十五兆円以上になる勘定なんですね。しかし、開示している二〇〇一年四月末以降の長期国債保有残高は、二〇〇一年四月末段階で四十五兆七千八百二億円だったのに対して、六年後の二〇〇七年三月末には四十九兆円強にすぎないわけですね。毎年十四兆近く以上の長国を買い上げているのにもかかわらず、急増するどころかほとんど増えていないというのが長期国債保有残高の推移であります。
なぜこうなっているのかというと、もう時間もないので私の方で理解していることを申し上げますと、国債の償還システムにそれはあるんだろうと思います。
日銀が保有する国債は、原則として全額が現金償還をされていると。これは、ホームページでもたしかそのように書いてあると思います。したがって、満期到来国債と国債買上げ額の差額しか保有長期国債は増加しないと。一部、借換国債の新規引受けも行っていますけれども、これは、借換国債は短期国債とするというそういうルールになっておるようでございますので、いずれにしても、長期国債の保有残高は減少すると。
私は、ここで申し上げたいのは、二つの事実から御質問したいんです。
一つは、巨額、私にとっては巨額と理解しておりますが、巨額の長期国債買いオペという事実、そしてもう一つ、保有している長期国債は現金償還されるという事実、この二つの事実から、それは見方を変えると、結果的には、長期国債利回りは日銀と財務省の共同管理状態にあるんではないかということを言われても仕方ない現状ではないか。まあそういうことは万が一にもあってはならないわけですけれども、しかし疑いを持たれることもまたそれは問題ではないかというふうに思うわけですけれども、いかがでございましょうか。

○参考人(福井俊彦君) おっしゃるとおり、多額の国債買いオペを新規で実行しながら、一方で償還が多くて残高が減っていると、こういう状況でございます。
これは、オペレーション、買いオペレーションをいたします場合に、長期の国債、十年国債をすべて買っているかといいますと、市場に出ております国債は十年国債であっても残存期間は十年近いものからもう非常に短いものまでずっと幅がございまして、実際にはその幅広い残存期間の国債のほとんどすべてに我々はオファーしていて、この買いオペに応ずる民間の側では、自分の方のポートフォリオの調整の必要も考慮しながら、いろんな残存期間の長さのものを日本銀行に売り希望を出してまいります。結果といたしまして、日本銀行が買い入れております国債の残存期間というのは意外に短いのでございます。
したがいまして、償還期到来金額というのは、買い入れている金額に比べますと意外に償還額が多いという結果になっていると、実際の買入れ期間は比較的短いということが事実になっているということでございます。

○西田まこと君 私が今日銀に申し上げたかったことは、今のいろんな、間口が広くて実際に残存期間が短いがためにそういう形になっているというお話でありますけれども、長期金利の形成そのものをやはり市場にゆだねるというその市場構造の正常化ということをやらなければならない課題として今日本の市場にあるんじゃないかという問題意識であります。
最後に、いわゆる、日本語で訳すと前方監視型の金融政策というんでしょうか、フォワードルッキングと、英語が得意じゃないものですから意味が分からないので、前方監視型の金融政策とは一体どういうことかということの含みでお聞きしたいと思います。
その具体的な中身は先ほど来からお話があったとおりでございまして、それとの関連も含めて、議論の中にあるのは、いわゆる物価目標型の金融政策の成功事例として最近取り上げられていたイングランド銀行ですね、今は逆に大変厳しい批判の目にさらされております。物価目標型の金融政策そのものに対して非常に疑問符が投げ付けられている、突き付けられていると。
細かい話は飛ばしますけれども、低インフレは決して経済の安定には直結していないんだという事態が起きているということでありまして、その問題を先鋭化させているのが資産インフレの問題であろうというふうに思うわけでございます。日本において、過剰流動性が将来的に資産インフレに火をつける懸念がないのかどうか。
幸い今は円安と輸出の好調という他力によって危機的状況を脱しつつありますけれども、今現在海外で徘回している資金が逆流して国内に還流が起こってくれば、これはたちまちにして過剰流動性と円高、輸出の不振というような良くない循環になってしまう懸念もあろうかと思っております。
こうした資産インフレの懸念ということと過剰流動性の話、また物価目標型の金融政策がイギリスにおいて今大きな壁にぶち当たっているということも含めて、最後、総裁に御認識をお聞きしたいと思います。

○参考人(福井俊彦君) 委員御指摘のとおり、私どもも、そして外国の中央銀行の多くも、いわゆる前方監視型とおっしゃいました、フォワードルッキング的な枠組みを設けながら金融政策の運営を行っている。それは、金融政策が経済や物価に最終的に影響を及ぼすまでにある程度の時間を要するために、将来好ましい経済の姿をつくろうと思えば、かなり手前のところで適切な政策運営を行う必要があるからでございます。
そうなりますと、先ほどからも議論出ておりますとおり、目先にインフレが迫ったから何かたたくというふうに見えやすい金融政策よりは、非常にある意味で分かりにくい金融政策をやるということになりますので、透明性確保のために中央銀行は最大限の努力をしなきゃいけない、あるいは様々な道具立てを使わなきゃいけないということでございます。
インフレーションターゲティングというものを採用している国は、やはりそうした考え方を基礎に置きながら、その国の実情に最も適する方法としてインフレーションターゲティングということをやっているということだと思いますし、日本銀行の場合には、現在置かれた状況、これから将来予見される日本の状況というふうなものを考えました場合に、インフレーションターゲティングというよりは、現在私どもの取っております中長期的な物価安定の理解と、そして二つの柱に基づく経済の点検と、これで十分御説明しながら金融政策の運営を行っていくのが目的達成上も、あるいは透明性確保の上でも望ましいという姿を取っているわけでございます。
委員御指摘のとおり、あるいは先ほどからの議論も出ておりますとおり、世界的にもそうなんですが、特に日本の状況におきましては、景気の拡大が続き、需給がタイトになってもなかなか伝統的な物価上昇という形に跳ね返りにくい状況がいましばらく続いている、これからもしばらくはそういう状況が続く可能性がありますけれども、逆に言えば、そういう状況の下においては、低い金利水準の下では、資産価格の取引、その他将来の経済の姿を好ましくする方向への取引でない方向へ資源配分が行われやすい可能性があるということは十分念頭に置かなければいけないということでございます。
したがいまして、我々はインフレーションターゲティングは取らない、しかし物価安定の理解ということで、緩やかな枠組みの中で、単に物価だけではなくて、資産価格の動き、為替相場の動き等も十分念頭に置きながら、目指すべきは安定的な成長軌道と、その基礎は物価安定がしいていると、これを目指しているということでございまして、方程式は多少複雑になっているんですけれども、ねらっているところは極めてクリアであり、その軌道からそれていないかどうかということを常時点検しながら、その状況についてはいつも御報告をし続けてまいりたいというふうに思っております。

○西田まこと君 終わります。