本会議 第11号 2009-03-18

要旨
○今回の税制改正の位置づけについて
○3月末までに法案が成立しなかった場合の国民生活への影響について
○住宅ローン減税における中・低所得者層への配慮について
○自動車販売促進のための支援措置の検討について
○省エネ等の観点から、利益の上がっていない7割近い会社への対策について
○中小企業関係税制で、対象となる中小企業について
○商店街の活性化に向けた税制支援について
○延滞税の税率について
○「企業原理主義」とも言うべき税制の方向性について
○分配重視型の税制への転換、そのための非課税所得層への「負の所得税」について
<>○議長(江田五月君) 西田実仁君。
〔西田実仁君登壇、拍手〕
○西田実仁君 公明党の西田実仁でございます。
私は、公明党、自由民主党を代表して、ただいま議題となりました財源特例法案並びに平成21年度所得税法等の一部を改正する法律案について質問します。
現在、経済政策の焦点は、急激な輸出需要の垂直落下から起きた需要不足をいかに埋めるかに集まっています。経済が需要の消滅という形で大出血しているときには、当面の措置として大量の輸血が不可欠です。しかし、需要不足をいつまでも財政で埋め切れるわけでもありません。そこで、民間の前向きな投資を促す需要創出策、テーマが必要となります。税制にはまさにこうした一国全体の大きな行動指針を示していく役割があります。
そこで、まず総理にお聞きします。今回の税制改正は、一連の経済対策の中でどのように位置付けられるのでしょうか。あわせて、財務大臣にお聞きします。仮に3月末までに法案が成立しなかった場合、国民生活にはどのような影響が及ぶのでしょうか。具体的に答弁願います。
平成21年度の税制改正は、1兆円規模の減税という規模もさることながら、国全体の方向性を示す将来志向型の税制になっていることが特徴と考えます。
例えば住宅税制です。住宅ローン減税による景気対策にとどまらず、住宅の長期優良化や省エネ化、バリアフリーなどの高齢化対応といった将来のあるべき姿、方向性に対する減税措置が盛り込まれています。ただ、一方で、減税の恩恵を受けるのは富裕層のみといった批判も一部で聞かれます。今回の住宅ローン減税において、中低所得層への配慮はどのようになされているのでしょうか、財務大臣にお聞きします。
また、自動車課税についても、従来にない減税規模とともに、環境性能の高い自動車に対する減税措置がとられています。これも国全体の方向性を示した将来志向型の税制改正であります。
ただ、世界的な自動車不況を受けて、各国とも自動車販売促進のための支援措置を大胆にとっています。日本は自動車車体に対する重い課税もあり、この面では必ずしも先行しているとは言えません。本法附則104条には、自動車関係諸税の簡素化と負担の軽減が盛り込まれております。その検討に向けた総理の決意とその方向性についてお聞きします。
さらに、エネルギー効率の引上げや資源生産性向上に資する生産設備等の即時償却を可能にする制度も導入されます。個別産業優遇型の特別措置から全産業対象の特別措置に移行する望ましい税制改正です。しかし、即時償却などの特別償却は当然のことながら利益を上げている企業にしかメリットはありません。省エネ等の目的からすると、利益の上がっていない約7割近い会社への対策も必要です。他にどのような支援策がありますか。経済産業大臣にお聞きします。
中小企業関係税制では、軽減税率の時限的引下げ、欠損金の繰戻し還付制度の復活が盛り込まれました。減税規模は2400百億円と言われます。対象となる中小企業はどれくらいあるのでしょうか。財務大臣にお聞きします。
商店街の活性化に向けた税制支援もあります。経済産業大臣による認定事業を行う商店街等に土地を譲渡したものに対して、1500百万円を上限に譲渡所得の特別控除を行います。これを知った商店街組合の会長さんから早速連絡がありました。しかし、喜んだのもつかの間でありました。対象となる商店街組合は法人格を持つものに限るというものだからであります。
多くの商店街組合は資金も不足、スタッフも不足をしております。法人格を持つ商店街振興組合等は全国に4000ほどしかないとも聞きます。この際、商工会議所や商工会が代行して受けて、法人格を持たない商店街組合にも活性化に向けた支援策が受けられるようにするなど、支援対象をより広げるべきと考えますが、経済産業大臣、いかがでしょうか。
中小企業の経営者から再三にわたってお聞きする延滞税の税率についてお伺いいたします。
現在の税率14.6%に引き下げられたのは昭和37年。その前年である昭和36年政府税調の国税通則法の制定に関する答申には、最近において金利水準が低下したこと及び将来においても同様な傾向が予想されることにかんがみ、全体として延滞税の割合を引き下げることが適当とありました。
もちろん、14.6%という数字には利息相当分のみならず、納税促進効果をねらった部分も含まれており、その時々の市中金利と比べるだけではいけないとは理解しつつも、それでもなぜ14.6%なのかは不明であります。未曾有の不況の今のこの御時世には余りに高利と嘆く中小企業も少なくありません。延滞税の税率について再考する余地はないのでしょうか。財務大臣にお聞きします。
今回の税制改正は、将来を見据えた問題点を浮かび上がらせ、税制再考のための一つの転機になっていることも特徴であります。附則104条の税制の抜本的な改革に係る措置がそれであります。
第一点は、加速されてきた企業原理主義ともいうべき税制の方向性を転換するかどうかであります。国際競争力向上のために法人税率引下げを主軸に国の成長を図ろうとすれば、企業や株主に有利な税制を用意することになります。その結果生ずる法人税収の構造的低下は、所得税や消費税の増税によって賄われていくことになります。法人税の引下げによる減収分は、成長による法人税収の増加では埋め合わせられないからであります。
しかし、平成19年度国民経済計算によれば、この10年、日本の所得分配は、サラリーマンの賃金やボーナスが約14兆円減る一方で、企業所得が約14兆円増えるという好対照を現じております。企業と株主に所得が偏在し、企業の重要なステークホルダーである被雇用者に適切に分配されているとは言い難い状況であります。税引き後の所得が、企業や株主、投資家に一方的に集中しないように、税制は転換をすべきと考えますが、財務大臣、いかがでございましょうか。
第二点は、逆に分配重視型の税制に転換するかどうかであります。所得維持のための税制とも言い換えられます。定額給付金がその走りであります。給付付き税額控除がこの附則にも検討項目の一つとして記されております。給付付き税額控除は非課税所得層にも減税の恩典が届くようにする負の所得税の一つであります。
現在、生活保護の水準は、平均給与収入などが不況の影響で下がると連動して切り下げられる仕組みとなっておりますが、これは本末転倒のやり方ではないでしょうか。不況期こそ生活保護費の水準を維持すべきであり、一方で、生活保護にかかわらず頑張っている低所得層に対しては負の所得税などで生活水準を維持できるようにすべきであります。
そのためには、納税者番号制度の導入などによる所得の正確な把握や財源としての消費税を含む税制の抜本改革など、附則に盛り込まれている検討が必要なことは言うまでもありません。
分配重視型の税制への転換、そのための非課税所得層への負の所得税について、財務大臣の御所見をお伺いして質問を終わります。
ありがとうございました。(拍手)
〔内閣総理大臣麻生太郎君登壇、拍手〕
○内閣総理大臣(麻生太郎君) 西田議員の質問にお答えをさせていただきます。
まず、税制改正の経済対策の中での位置付けについてのお尋ねがありました。
現下の金融経済情勢の下、当面は景気回復を最優先に図るため、政府は事業規模約75兆円の景気対策に取り組んでいるところであります。今般の税制改正における国、地方を合わせた1兆円を超える大胆な減税はこうした景気対策の一環として講じられるものであります。国民の暮らしや企業活動を支えるため、幅広い分野にわたっております。
具体的には、住宅ローン減税の大幅な拡充、延長、そして、環境対応した車への自動車重量税・取得税の減免、中小企業の法人軽減税率の引下げ、農地に係ります相続税の納税猶予制度につきましては、農地の有効利用の促進に資する貸付けの場合も、これを適用の対象とするなどの措置を講じることといたしております。
また、中小企業の雇用を維持し、事業を継承した場合においては、相続税や贈与税を猶予することといたしており、地域社会やコミュニティーの維持にも役立つのではないかと考えております。
これらの施策は、我が国の内需を力強く刺激し、早期の景気回復の実現に資するとともに、将来の我が国の新たな成長を切り開くものではないかと考えておる次第であります。
自動車関係諸税についてのお尋ねもありました。
今回の税制改正では、厳しい経済情勢の下、環境性能に優れた自動車について思い切った減税を講じることといたしております。御指摘の自動車関係諸税の簡素化、負担の軽減の在り方につきましては、税制改正法案の附則で示されておりますとおり、今後の税制抜本改革において、厳しい財政事情や環境に与える影響などを踏まえつつ、総合的に今後検討してまいりたいと考えております。
残余の質問につきましては、関係大臣から答弁いたさせます。(拍手)
〔国務大臣与謝野馨君登壇、拍手〕
○国務大臣(与謝野馨君) 御質問にお答えを申し上げます。
税制改正法案が3月末までに成立しなかった場合の国民生活への影響についてお尋ねがございました。
まず、租税特別措置の適用期限切れについて。
住宅用家屋や土地の売買等に係る登録免許税の軽減措置を始め、各種の登録免許税に係る軽減措置の失効等により、様々な取引等の当事者にとって想定外の負担増が発生をいたします。
紙巻きたばこやウイスキー等の携帯品輸入に係る特例税率が失効するため、たばこ税や酒税の税額と消費税額とを個別に算出する必要が生じ、旅行者等が行う通関時の納税手続が煩雑化し、スムーズな通関に支障が発生をいたします。
特定の石炭に係る石油石炭税の免税措置が失効するため、鉄鋼等製造用の石炭の価格の上昇により、鉄鋼産業等の国際競争力の低下や鉄鋼等を使用する製品の価格高騰が生じます。
以上に申し上げましたような例など、国民生活等に混乱が生じます。
また、住宅ローン減税や中小法人等の欠損金の繰戻し還付など景気対策の遅れを招き、国民生活や企業活動への影響が懸念をされます。
税制改正法案の年度内成立に向け、議員各位の一層の御理解と御協力をお願い申し上げます。
次に、住宅ローン減税についてお尋ねがありました。
今般の住宅ローン減税の改正は、早期の住宅取得を促進するとともに、住宅投資の経済全体への波及効果を通じて景気回復を最優先で図るため、最大控除可能額を過去最高水準に引き上げるというものであります。
その際、減税額が個々の所得税額から控除し切れない場合には、更に個人住民税から税額控除できる仕組みを新たに創設することとしており、中低所得者層にも減税効果が幅広く及ぶようにしております。
次に、中小企業関係税制の対象となる法人についてお尋ねがございました。
対象となる法人数については、中小企業の所得動向等により左右されるため、一概に申し上げることは困難でありますけれども、平成19年度の調査によれば、資本金1億円未満の法人のうち、軽減税率の時限的引下げの対象となる利益計上法人の数は約83万、資本金1億円未満の法人に関し、前年利益で本年欠損となり、欠損金の繰戻し還付の対象となる法人の事業年度の数は約18万となっているところであります。
次に、延滞税についてのお尋ねがございました。
現行の延滞税の割合は、現在における民間や他の公租公課の遅延損害金等とも比較しても、決して高い水準にあるわけではなく、歴史的にも、シャウプ勧告以来、民間の遅延損害金等をしんしゃくして現行水準まで引き下げてきたものであり、現在でも妥当な水準にあると考えております。
なお、延滞税については、充実した減免措置が設けられており、個々の納税者の状況に応じて配慮が行われているところであります。
次に、所得分配と税制抜本改革の方向性についてお尋ねがありました。
企業活動によって得られた付加価値の分配の在り方については、基本的には個々の企業における配当戦略や労使交渉などによって決まるものであり、税制が与える影響について一概に申し上げることは困難であります。
他方、今後、社会保障の安定財源の確保や社会における様々な格差の是正、経済の成長力強化といった課題に対応するため、税制の抜本改革に当たっては、幅広い観点から、所得、消費、資産の税体系全般にわたる見直しを行ってまいりたいと考えております。
いわゆる負の所得税についてお尋ねがありました。
税制改正法案の附則においては、個人所得課税の見直しの基本的方向性として、格差の是正や所得再分配機能の回復の観点から、歳出面も合わせた総合的取組の中で、中低所得者世帯の負担軽減等を検討することとしております。今後、こうした基本的方向性に沿って検討を行っていくこととなりますが、いわゆる負の所得税についても、その中の一例として検討が行われることになると考えております。
以上でございます。(拍手)
〔国務大臣二階俊博君登壇、拍手〕
○国務大臣(二階俊博君) 西田実仁議員にお答えいたします。
利益の上がっていない7割近い会社の省エネルギー対策についてのお尋ねでありました。
省エネルギーは、エネルギー安全保障や地球温暖化問題の克服はもとより、厳しい経済情勢の中、我が国が経済成長を続けるためにも重要な取組であります。
このため、経済産業省では、企業等の省エネルギーの取組を支援するため、中堅・中小企業が無料で利用できる省エネ診断、また省エネルギー効果の高い設備の導入や技術の開発に対する補助など、総額1千億円程度の予算措置を講じており、これらは利益が上がっていない企業も利用可能となっております。
経済産業省としては、省エネを新たな需要と雇用を生む我が国の強みととらえ、引き続き強力に推進してまいりたいと考えております。
次に、商店街活性化のための土地の譲渡所得の特別控除制度について、対象範囲についてのお尋ねがございました。
御指摘の制度は、今国会に提出しました商店街の活性化のための地域住民の需要に応じた事業活動の促進に関する法律案に基づく経済産業大臣の認定を受けた商店街振興組合や事業協同組合等に対して、土地を譲渡した個人や法人が1500百万円を上限に特別控除を受けられるものであります。
この制度については、特に土地が譲渡される先を商店街振興組合等に限定していますが、これは、空き店舗の有効活用など商店街活性化の取組に継続して利用されることを確保するために商店街全体としての意思を確認できることが必要であり、なお、適切な行政上の監督を及ぼすことも可能な主体に限定すべきであるとの考え方に基づいたものであります。
一方で、商店街振興には様々な施策を講じており、経済産業省としては、本税制度のこの措置のほかに、地域住民の交流施設の整備、さらにイベント開催などのための補助金、人材育成等の支援策も実施することとしており、この中で法人格のない商店街にも支援を広げてまいりたいと考えております。
以上です。(拍手)
○議長(江田五月君) これにて質疑は終了いたしました。