190-参-財政金融委員会-001号 2016年02月18日

○西田実仁君 公明党の西田実仁でございます。
 今回のマイナス金利の導入につきまして、一部の市場では円高回避と株価の下支えを期待する向きもありました。これは、再三御指摘ありますように、二〇一四年の六月八日の日にECBが導入しましたマイナス金利によりまして、金利は低下その後しました。ユーロも下落しました。貿易収支は黒字転換し、貸出しは拡大をし、そして景気も、実質GDPで見ますと、二〇一三年がマイナス〇・三だったのが二〇一四年にはプラス一・一と、こういうふうになった。こういうことから類推して、一部ではそうした円高回避や株価の下支えということを期待する向きもありましたが、実際はそうにはならなかったわけであります。
 なぜそうなのかということを私なりに考えますと、やはりこれはECBがマイナス金利を導入したときと現在の日本の今の状況とは異なるということだろうというように思います。
 まず第一に、為替の水準が違います。当時、ECBにおきましては、実際のレートと購買力平価を見ますとユーロは割高になっておりました。今は円は割安にPPPを見ますとなっております。第二番目に、貿易収支を見ますと、当時、EUは二〇一四年六月段階で九十九億ユーロのマイナス、日本はもう二〇一五年十一月に千三十二億円の黒字になっていると、これも向きが違うと。さらに、大事なことはドルのポジションでございまして、ドルは当時、二〇一四年六月十八日にイエレンFED議長が出口戦略開始の予告をしまして、ドルが上昇するという局面でありましたが、今は異常なドル高の弊害が顕在化しているという状況、これも方向が全く異なっておりまして、以上の三つの点から一部の市場が期待したような結果にはならなかったと、このように私は考えております。
 そこで、黒田総裁にお聞きしたいと思いますけれども、ECBがマイナス金利を導入したときとただいま現在の日本の状況とでどういう点が異なると認識されているのか、そしてその効果についてもお聞きしたいと思います。

○参考人(黒田東彦君) ただいま委員が御指摘になったような状況が世界経済の中にあったということはそのとおりだと思います。
 その上で、特に最近の主要国の株価が軟調に推移しドル安傾向が続いているということの背景には、原油価格の下落、中国経済の先行き不透明感に加えて、欧州の銀行セクターに関する懸念、あるいは米国金融政策の先行きに関する不透明感が高まって、世界的にリスク回避姿勢が過度に広まっているということがあるというふうに認識しております。その背景に御指摘のような状況があったということはそのとおりだと思います。
 そういったことを踏まえて、今後とも、私どもは市場のやや行き過ぎた過剰反応だと思っておりますけれども、しかし、市場は市場でございますので、そういった市場の動向を十分注視して、我が国の経済や物価にどういった影響が出てくるかということは冷静に分析し、必要に応じて対応していくということにしたいと思っております。

○西田実仁君 目を世界に転じますと、今回の日銀によるマイナス金利の導入によりまして、欧米の国債利回りも急落をしてございます。一月二十八日の時点とマイナス金利の導入が決定してからの直近のアメリカの十年債や英国、ドイツの十年債を見ても、いずれも下がってきているということでございます。
 そういう意味では、日銀による今回のマイナス金利の導入は、国内はもちろんですけれども、世界の金利引下げを通じて世界の景気を下支えする効果もあるのではないかと私は見ているわけであります。
 しかし、問題は、このマイナス金利が伝播することによりまして、為替の切下げ競争というか、そういうようなことが誘発しないための国際協議というのをしっかりと行っていかなければならないのではないかと。特に、人民元の売り投機の防止を始めとしました為替市場の安定というものは急務だというように考えております。
 今月二十六、二十七日にはG20財務大臣・中央銀行総裁会議がございます。そこにおきましては、我が国が国際金融市場安定のための国際協調行動の議論をリードしていかなければならないのではないかというふうに思っております。具体的に申し上げますと、アメリカの無理な利上げの回避や為替投機の防止策、通貨スワップの拡大やドル資金の供給などということになろうかと思いますけれども、こうした国際会議におけます総裁の決意、思いを是非お聞かせいただきたいと思います。

○参考人(黒田東彦君) 御指摘のとおり、今回の上海のG20では、各国の経済金融情勢の議論がかなり大きな議題となってくると思います。そこでは、当然、最近における国際金融市場の不安定な動きの背景とその影響について議論するということになると思います。私からは、先般導入を決定したマイナス金利付き量的・質的金融緩和の内容、あるいはその決定の背景としての本年入り後の国際金融市場の不安定化についても言及することになると思います。
 その上で、何と申し上げましても、世界最大の経済である米国、二番目の経済である中国、さらにはユーロ圏、日本といった主要な経済主体が必要に応じて協調的な行動をするということは非常に重要だと思いますので、具体的にどのようなことになるかというのはまだこれは会議をしてみないと分からないと思いますが、できるだけ国際金融市場の安定のためのG20になるのが望ましいと思っております。

○西田実仁君 先ほど、今回のマイナス金利の導入において、雨宮理事からの御答弁で、バランスという話があったかと思います。一つは、イールドカーブ全体を下げるという目的とともに、銀行経営の、銀行の収益圧迫をいかに和らげていくのかという、そのバランスというお話だったと思います。
 しかし、ここで是非議論しなければならないのは、そもそも何でマイナス金利を導入しなければならなかったのかという背景というか目的ですね。それは、普通に日銀が国債を買い入れても、金融機関の方はいわゆる日銀当座預金に豚積みしてお金が回っていかないという問題がもし本当になければ、こういうマイナス金利を導入しなくても順調に量的・質的緩和で進んできたわけでしょうから、私は、このバランスはもちろん大事なんですけれども、大事なんですけれども、なぜマイナス金利を導入しなければならなかったのかということを考えたときには、このマイナス金利を導入した効果が最大限発揮されるようにしなければならないと、端的に言えばそういうふうに思います。
 銀行の収益圧迫を和らげるような制度設計ということを中曽さんもニューヨークの講演で言われておられますけれども、もちろんそういう面は理解しますけれども、しかし、そもそもなぜ必要だったのかということに鑑みたときには、その効果の発現を妨げるとまで言えば言い過ぎかもしれませんけれども、きちんとその効果が発揮できるようなことをしていかないと、何のために導入したのかということに結果的にはなってしまうんじゃないかと私は思っております。
 その意味で、特に、先ほど石田先生の図を使って恐縮ですけれども、この日銀のホームページにありますマクロ加算残高のところですね、これが徐々に広がっていくということなんですけれども、問題は、このマクロ加算なるものがどの程度のマクロ加算になるのかというのがマーケットは分からないんですね。ですから、非常に市場が懐疑的になっていると。
 ですから、本来のマイナス金利の導入をしなければならなかったことを考えたとき、その効果を最大限発揮しようと思ったときには、このマクロ加算のところを、ある意味では歯止め策かもしれませんけれども、制限をして、そしてマイナス金利の効果が最大限発揮されるような仕組みにしていかないと、私は所期の目的を達成できないのではないかというふうに思っております。
 もちろん銀行経営の収益圧迫を考えなきゃいけないのはそのとおりなんですけれども、そもそもなぜ導入しなければいけなかったのかというところの原点に戻っていくには、余り中途半端なことをするとかえって効果は、というかマイナスの方が大きくなってしまうんじゃないかということを気にしておりますが、この点はいかがでしょうか。

○参考人(黒田東彦君) 委員御指摘のとおり、マイナス金利が適用される部分が常に適切な額だけ存在するということが、先ほど来申し上げているように、金利や相場に対する影響からいって非常に重要であります。
 他方で、マネタリーベースが年間約八十兆円増加していくということになりますので、こうした下で、マイナス金利が適用される部分が適切な規模になるように適宜のタイミングでゼロ金利が適用される部分を調整していくと。あくまでも、委員御指摘のとおり、マイナス金利が適用される部分を適切な額確保していく、それによってイールドカーブ全体の引下げ効果を確保していくということが極めて重要だと思っております。

○西田実仁君 この今回の階層構造方式を導入をされたのは、まさにそういう金融機関の経営を圧迫しないということと、また年間八十兆円の国債買入れができるようにマクロ加算によってゼロ金利対象分を適宜追加的に拡大するという、こういう方式なわけでありますけれども、金融機関への配慮をすればするほどマイナス金利の効果が削減されて、逆にこの豚積みが拡大するんではないかというふうに考えませんでしょうか。

○参考人(黒田東彦君) そこは先ほど来御説明しておりますように、マイナス金利が適用される部分が適切に確保されておりますとその当預残高がどんどん膨らんでいく必要は別にないわけでして、今の、二十数兆と言われていますけれども、マイナス金利がちょうど適用されている部分であっても既に非常に大きな効果を持っておりますので、その部分をどんどん拡大していかなくても、年間八十兆、その量的・質的金融緩和の下でマネタリーベースが増えていく分に対応して適宜のタイミングでこのゼロの部分を上げていっても、十分このマイナス金利が適用される部分が常に適切な額だけ確保されていってマイナス金利の効果は確保されるというふうに見ておりますが、いずれにいたしましても、そういった市場の状況等も十分注視して、適切にそういった調整をしていきたいと思っております。

○西田実仁君 終わります。