190-参-財政金融委員会-012号 2016年05月12日

○西田実仁君 公明党の西田実仁でございます。
 黒田総裁にお聞きしたいと思います。
 世界経済の現状についての認識ということでございます。四月のG20の声明におきましては、金融市場は、二月の上海会合以来、年初来の下落幅がほとんど回復、成長は引き続き緩やかでばらつきがあります、金融市場の変動、一次産品輸出国が直面する課題及び低いインフレ率を背景に世界経済の下方リスクや不確実性が残る、そういうように声明でまとめられております。また、六月二十三日にイギリスで国民投票が行われます。EU離脱となる可能性もありまして、世界経済の環境を複雑にしているのは事実だろうと思います。
   〔委員長退席、理事長峯誠君着席〕
 しかし、現在の世界経済について私自身が、例えばGDP、IMFが出している名目や実質のGDP、あるいは世界の株価の時価総額等を見ますと、正直申しまして、リーマン・ショックとの比較でありますと、そのGDPや時価総額等を見ると、当時の三分の一ぐらいではないかというふうに数字上見られるんですね。したがって、これはどう見るかということをお聞きするんですけれども、現在の世界経済については、今日の御報告にもありましたように、様々なリスクはあるというものの、果たして予見できないリスクがあってリーマン・ショックに逆戻りしかねない状況と判断されているのか、そのリスクの度合いについてどの程度見ておられるのかをお聞きしたいと思います。

○参考人(黒田東彦君) 委員御指摘のとおり、世界経済は緩やかな成長が続いております。特に、新興国を中心に減速はしておりますけれども、欧米等は比較的しっかりとした回復を続けているということであります。
 御指摘のように、IMFの見通しあるいはG20の最近のコミュニケなどでも緩やかな成長が続いているということは認めておるわけでございます。ただ、下振れリスクという点につきましては、実は日本銀行の展望レポートでもかなりあるというふうに見ております。
 その要因といたしましては、新興国や資源国に関する不透明感、それから米国経済の動向やその下での金融政策運営、それが国際金融資本市場に及ぼす影響、あるいは委員御指摘のブレグジットの問題もあるかもしれませんが、それより前に議論されておりましたグレグジットというか、ギリシャの債務問題の展開その他、やはり下方リスクというものが大きいのではないかというふうに考えております。
 ただ、現時点でリーマン・ショックに逆戻りしかねない状況、そういう大きなリスクがあるというふうには見ておりません。ただ、下振れリスクがあるということは私どもも認めております。

○西田実仁君 原油価格についてですけれども、原油価格の底入れによりまして物価のマイナス要因が解消ないし減少すると、今後、物価が徐々に上昇すると、こういうふうに見ておられるようでありますけれども、しかし、原油下落の影響というのは幾つかステージというか段階があって、原油下落の最終製品価格への転嫁が進んで、最終財価格そのものの下落は広がっているのが現状ではないかというふうに思うんですね。現に、この最終財価格、昨年の春以降下落しておりまして、本年二月現在でも三十一の分類中九分類で底入れしているにすぎないという状況であります。このGDPギャップがまだ存在している以上、性急な物価上昇は消費にかえってマイナスになるのではないかという見方もあります。
 デフレマインドから消費性向が低下している現状を鑑みますと、原油低価格時代での新価格体系への誘導こそが景気回復の早道ではないかというふうに思いますけれども、いかがでしょうか。
   〔理事長峯誠君退席、委員長着席〕

○参考人(黒田東彦君) 日本経済が持続的な成長を実現するためには、何としてもデフレから脱却して、二%の物価安定の目標を早期に実現することが必要であると考えております。デフレの下で、価格の下落が企業の売上げあるいは収益の減少につながって、その結果、賃金が更に抑制されて消費が低迷する、そして更なる価格の下落につながるという悪循環がデフレの下では起こりますので、そうした状況を打破するためには、やはりデフレマインドの抜本的な転換、物価が緩やかに上昇する状況をつくり出すことが必要であるというふうに考えております。
 御指摘の原油価格につきましては、確かに足下、少し底入れをしております。これは、パリのIEA自体も、原油価格は底入れしたのではないかと言っております。ただ、その後、これがかつてのような水準まで上昇していくというふうには見ていないようでありまして、原油価格につきましては、引き続き、特に供給側のいろいろな要因が重なっておりますので、どのように動くのかというのはまだまだ不確実性があると思いますけれども、基本的には原油価格が緩やかに上昇していくという、これは市場もそう見ておりますし、IEAなどもそう見ているようですけれども、そういった前提の下では物価上昇率も緩やかに高まっていくのではないかというふうに考えております。

○西田実仁君 欧州中央銀行、ECBは、三月の十日の日に、貸出条件付長期資金供給オペ2、いわゆるTLTRO2の導入を決定しております。ベンチマークを上回った貸出増加額に対して最大マイナス〇・四%の金利を付与すると、こういう決定であります。
 ここに至るまでの間に、当然TLTROで超低金利による長期の資金供給オペ、七回ほど行っておりまして、計四千二百六十億ユーロを供給をして、その結果、金融機関の貸出額というのは、二〇一四年の九月から増加に転じ、同年十二月には前年同期比プラスになっております。こうしたオペの期限が本年六月に切れるものですから、この2をスタートして、期間四年、最大でマイナス〇・四の金利で長期資金を供給すると、こういう決定ですね。
 これについての評価をちょっとお聞きしたいと思っているんですが、私自身は、こうしたことを参考にして日銀貸付金にマイナス金利を付与するというふうになれば、融資拡大効果が期待されるのではないかというふうに思っております。
 今日、お手元にお配りしました長・短期プライムレートの推移を見ていただくと一目瞭然ですけれども、ゼロ金利が再開しました二〇〇八年の十二月以降、中小企業金融の基準であります短期プライムレートというのは、今日に至るまで一・四七五%で横ばいが続いております。それに対しまして、大企業向けの融資の基準であります長期プライムレート、これは二・二五から国債利回りの下落に伴いまして現在〇・九五%になっているわけでございます。
 そういう意味でも、この短期プライムレートを引き下げる余地を銀行につくり出すためにも、例えば、こうした日銀貸付金、今、成長基盤強化とかあるいは貸出増加を支援する資金供給と合わせると三十一兆円余りありますけれども、こうした日銀貸付金に、これは低利で貸出ししているわけでありますけれども、マイナス金利を付与して、そして中小企業向けの短期プライムレートを引き下げる余地を銀行に与えて、そして中小企業向け融資を増やしていくと、こういう道筋もECBの今回の決定を参考に考えてはいかがか、それをやるにはどういう課題があるのか、これを最後、総裁にお聞きしたいと思います。

○参考人(黒田東彦君) 御指摘のように、日本銀行は、金融機関の貸出増加に向けた取組を支援するという観点から、貸出増加支援オペと成長基盤支援オペを実施をしております。これらについては、本年一月のマイナス金利付き量的・質的金融緩和の導入と併せて、その適用金利をプラス〇・一%からゼロ%、無利息に引き下げたところであります。
 さらに、今年三月には、金融機関の貸出増加に向けた取組を一層支援するために、今申し上げたような貸出支援基金及び被災地金融機関支援オペの残高を増加させた金融機関については、当該金融機関が保有する日銀当座預金について、増加額の二倍までの金額についてマイナス金利の適用の対象外としたわけでございます。これは、金融機関が、貸出支援であれ、あるいは成長基盤強化支援であれ、さらには東日本大震災あるいは熊本地震の被災地金融機関支援オペにつきましても同様でありますけれども、日本銀行からの資金供給ファシリティーを活用して、貸出しを積極的に行う上で強いインセンティブになるというふうに考えております。
 なお、ECBの政策につきましては、委員御指摘のとおり、大変大胆というかユニークな政策であるということは事実であります。そして、その下で、ECBがデフレから脱却し、二%程度の物価安定目標に向けて大変な努力をしているということは高く評価をしております。
 ただ、我が国においてそういった方策を取るかどうかということは、これはあくまでも、毎回の金融政策決定会合において、経済、物価のリスク要因を点検して、その上で物価安定の目標の実現のために必要と判断した場合にちゅうちょなく量、質、金利の三次元で追加的な金融緩和措置を講ずるということは一貫して申し上げておりますけれども、具体的な手段につきましては、やはり何が最も適切な手段かということはその時点で決定会合において議論されるものであるというふうに考えております。

○西田実仁君 終わります。